LIGHTS UP IWATE インタビュー
埼玉西武ライオンズ
菊池雄星 投手
花巻東高校時代には甲子園で準優勝を飾り、ドラフト1位で西武ライオンズに入団。今や名実ともにチームのエースとなった菊池雄星投手。岩手を代表するアスリートの一人です。
華々しい活躍を続けている菊池雄星投手ですが、幼少期からプロ野球選手となった今に至るまでに経験してきたこと、そして今、岩手で野球をする子どもたちのことについて感じていることを率直に語ってもらいました。
◆野球との出会い
習い事は4歳頃から兄、姉が通っていたので、自分が選択したというよりは自然な流れで水泳、体操、ピアノ、そろばん、書道・・・あと、父がバレーボールをやっていたこともあり、小学1年生からバレーボールも始めました。かなり色々やりましたね。
野球チームは小学3年生からしか入ることができなかったので、その時から始めました。母の野球好きが僕と野球との出会いのきっかけです。
◆野球練習と学校との両立について
中学1年生の時から花巻東高校に行くと決めていたので、そこのトレーナーさんにお願いしてメニューを考えてもらい、練習していました。中学時代の3年間は、土日の硬式野球の練習以外は月曜日から金曜日まで、部活が終わってから4時間、そのメニューをこなしていましたね。なので、夜ご飯はいつも23時頃でした。
勉強に関しては、野球をしたいから授業中に集中し、とにかく平均を下回らないように頑張っていました。プロ野球選手になると決めていましたが、親に迷惑をかけないくらいの勉強はしないといけないと思い、親には「絶対にプロ野球選手になるから、勉強しなさいと言わないで!」と言ったこともあります。
もちろん、学校の友達は勉強や遊びも普通にしていましたけど、自分で野球選手になると先生や友達、親、監督に伝えていたので逃げ場がなかったですね
実際は、岩手県からプロ野球選手になるという人は今以上に少なく、周りの反応としては半信半疑って感じでしたけど、自分だけは絶対なれると思っていました。
◆花巻東高校に決めた理由
当初は県外の高校と迷ったこともありましたが、花巻東高校は岩手県の選手だけで全国を目指し、そして挨拶や目標設定を大事にしている監督が就任したと聞いて見学に行きました。挨拶が素晴らしかったのが印象的でしたし、試合中のベンチや応援スタンドの雰囲気も他の高校と違うことを感じ、このチームなら全国目指せると思いました。
あと、僕が中学1年生~中学3年生の時に駒澤大学付属苫小牧高校が優勝するなど良い成績を残したのを見て「北国でもやれるんだ」と思えたのも大きかったですね。
◆プロに入ってみて感じたこと
良くも悪くも個人。ランニングもトレーニングも自由。投げる量も何百球投げても、投げなくても自由。自分で考えて自分で選び、行動する。
なので、この世界は自分で考えてやらないと潰れてしまう、何も考えないと飲み込まれてしまうと思いました。
もちろん、自分では考えずにコーチからメニューを与えられている選手もいます。でも、絶対にそういう選手にはなりたくないなと。自分で考えて「僕はこういうトレーニングしたい」とか「今日は投げない」とコーチに言える選手になろうと思いましたし、だからこそ、勉強していかなきゃいけないと強く感じました。
それと同時に、そういうことを言えた選手が今残っていると思います。与えられたメニューを無理してこなしてケガしてしまう選手もいるし「今日何やるんですか?」「次何やるんですか?」と何年も聞く選手は、なぜその練習をするのかという意味をわかってやっていないんじゃないかなと感じますね。
◆学生時代のトレーニングメニューについて
元々勉強が好きだったので、トレーニングについても自分で勉強していました。高校2年生からは「今日はこのトレーニングしたいです」と伝えてやっていましたし、逆に、監督から「今日は何したい?雄星?」と聞かれることもありましたね。
高校3年生の時、同学年にはピッチャーが僕1人で、あとは後輩だけだったので監督から後輩に教えるよう言われました。「3時間あるから、どんなメニューを組めるか考えて、それを後輩にも教えなさい」など。自分にとっては、それがすごく良い経験になったと思っています。教える時に正しいことを言っても‟本人の腑に落とす”というのが1番難しいことだと思います。逆に、腑に落とせないと影響力にはならないんですよね。
きっと、なぜこのトレーニングをやるのかという納得感が欲しいはずなので、比喩や例え話を盛り込み「このトレーニングやるとこんな能力が得られるよ」と納得させることが出来ると、あとは皆が勝手にトレーニングを始めるようになります。
◆プロ入りして見えた景色
目で見えるものというよりも、ファンの声援が1番チカラをもらえますね。チームが勝利して歓声が聞こえた時が「野球をやっててよかったなぁ」と感じ、現状に満足せず高い所を目指し続けようと思わせてくれる瞬間ですね。
◆プロになって驚いたこと
ふと立ち返ると高校時代と一緒で「野球が好きだ」という気持ちに尽きるんですけど、結果が出なかった時代は年俸がどうだ、とか、今年優勝しなければクビかもという焦燥感があったり、お金や立場に対する恐怖心もありました。そんな時はいい記録は出ないですね。
ここ数年、安定して結果が出せるようになってきて、野球が好きだから「毎週毎週楽しみ」という気持ちで野球がやれている時は自ずと結果もついてくるものです。
◆ファンについて
ファンレターは嬉しいですし、宛名等がきちんと書いているものは、読むように心がけています。ちなみに僕のファンレターは茶封筒が多く、カラフルな封筒はあまり来ないですね(笑)
印象に残っているのは、盛岡の小学校に講演に行った時、僕が所属していた「見前タイガース」の5年生の子からもらった手紙です。
手紙には、現在、野球部員が11人しかいないので、6年生が引退したら野球が出来なくなってしまいます。僕が「野球やろうよ」って声をかけてもなかなかやってくれないので、雄星選手から「皆で野球やろうよ」って一言言ってくれませんか。と書いてあり、その手紙を読んだ時はグッとくるものがありました。
僕がこのチームにいた時代は総勢50人くらいいて、とても強いチームだったので・・・そんなことになっているんだと、とても衝撃でした。これは、自分の役割として取り組んでいかなければならないことだと感じ、それがきっかけで各地の野球教室に行ったり、野球をやったことがない子を集めて野球の面白さを伝えたりする活動に力を入れるようになりました。
◆野球人口の減少の原因について
現実として言えることは、野球場(西部ドーム)に来るお客さんは毎年増えていて、いつも西武ドームはいっぱいになるので、きっとそれを見ている人たちは野球は人気があるんだと感じていると思います。でも実際は、地方の現場に行かない限りは自覚できないんですよね。地方に行って指導者の話を聞くと現状を目の当たりにします。
僕が選手達に提案しているのは、問題は必ず現場で起きているので、各選手が自分の地元に行って現状の話を聞き、目で見ることが大切ということと、球場は色んな戦略を練ることもできるし、お客さんも呼べますが、もっと根っこの部分で子供たちの現場を見た方が良いという話をしています。
あと、昔ながらの「根性根性!」や指導者の暴力、坊主の文化が抜けない限りは、どんどん他のスポーツに後れをとってしまいますよね。怒鳴っている指導者、投げさせすぎている指導者も同じことで、なくならない限り、その子たちが大人になった時、野球が楽しいものだという印象がないので自分の子供にもさせないですよね。
‟楽しみながら教育する”というのがスポーツの根本だと思うので、そこを大切に野球を盛り上げていければと思っています。
◆野球教室以外の活動として
経験や取組みを伝える講演会は6年間行っていますが、僕らが動けるのはオフシーズンのわずか2週間なんです。何か月か前から地元TV局やスポンサー、地元の野球指導者の方とプランニングして出来る限り詰め込みます。でもそれは、打ち上げ花火のようなものでパーンパーンパーンと3発4発キレイだね、で、終わってしまうんですよね。
その後の、取組みが変わったのか、とか、指導法が変わったのか、とか、部員数が増えたのか、など、後々のカバーできていない状況に、もどかしさを感じています。出来れば年間を通して子ども達を正しい方法や指導でレベルアップさせ、更には競技人口も増やしたいというのをいつも思っています。
◆野球指導者に向けて
僕の体験でしかないんですけど、1番の指導は‟教えないこと”だと思います。実際、少年野球の野球教室に行っても、基本的には教えることってないんですよ。
― ただ見守って、ただ褒める ―
例えば僕が「君いいボールだね」「このままのフォームで大丈夫だよ」と言ってあげるだけで、スイッチが入って、その瞬間から“野球頑張ろう”って思えるようになります。
プロの本当に良い指導者も指導はしませんし、僕も小さい時からフォームを指導されたことは無く、自分の好きなように投げて「ナイスボール!」と言ってもらえたので心底野球を好きになれたんですよね。
[取材をしてみて感じたこと]
雄星選手と言えば、ストイックに野球に打ち込むだけでなくトレーニングや食事、栄養の知識についても深く研究し、また、様々な分野の書籍を読みこなす大変な読書家で有名です。
インタビューの間も幅広い知識に裏付けられた深い洞察力を感じましたが、一貫しているのは野球が出来た環境への感謝や応援してくれている地元ファンのことを、とても大切に考えているということでした。
自分が活躍することで、岩手県の人たちも喜んでくれる。子供達が自分もプロになれるかもしれないと真剣な表情で取り組んでくれる。そんな様子を見るのが本当に嬉しいとのこと。
全国的に野球をプレーする子供が減ってきており、岩手県でも同様の傾向が見られます。野球を楽しんで、更に上のレベルを目指す野球少年がもっと育って欲しいと自身の経験を振り返りながら、トレーニング方法や野球への取り組み方など落ち着いた口調で丁寧に語る姿と表情が印象的でした。
岩手を明るく照らす、素晴らしいアスリートとして、更なる活躍を期待したいと思います。
Interviewer 福澤
[プロフィール]
菊池雄星 1991年6月17日岩手県盛岡市生まれ 花巻東高等学校出身
埼玉西武ライオンズ 投手 2009年ドラフト1位で入団
いわて電力は2023年3月31日をもって事業終了致しました。
長らくのご愛顧誠にありがとうございました。
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