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LIGHTS UP IWATE インタビュー

岩手県盛岡市
グラフィックデザイナー 山崎文子さん

わたしも知らないわたしと出会う、岩手発のアートセラピー

窓辺から心地よい音色が流れ始める昼下がり。きょうは、月に1度の「ハートアートデイ」の日。「こころ、ほんわか、アートしましょう!」と岩手医科大学付属病院の一室でポカポカとした笑顔が出迎えます。
この笑顔の持ち主は、グラフィックデザイナーの山崎文子さん。毎月第2火曜日の午後1時半から午後3時まで、がん患者さんとご家族のためのサロンをボランティアで主宰しています。そこで繰り広げられる感動の連鎖。実際に「ハートアート」を体験しながら、山崎さんにお話を伺いました。

 

◆「ハートアート」とは、どんなアート?
スイス製の無害なクレヨンと水、そして画用紙があれば誰でも取り組めるヒーリングアートです。音楽に身を任せて、好きな色と一緒に踊るように、自由にクレヨンを動かしていきます。自分を無にして、たくさんの色を塗っていきます。
その次に、指に水を含ませて、塗った色を上からなぞっていきます。まさに指が筆。ゆっくりと一筆入魂の気持ちで、願いを込めて、スーッと指を動かします。すると、クレヨンが水と反応して、思いがけない新しい色を発します。
ハートアートには、「上手く描こう」という気持ちは、全く必要ありません。やっているうちに、なんだか気持ちがよくなる感覚を大事にしています。絵は無意識に出来上がりますが、最終的に何かに見えてきたり、自分が心地いいと思える空間ができたりするので不思議です。心のスケッチ、瞑想のようなアートです。

 

◆「ハートアート」が誕生したきっかけ
デザイナーの仕事と子育てで悩んでいた時、ふと「絵ってほんとは、自分自身を喜ばせるためにあるんじゃないか?」と思いました。
「ホンモノのアートは、自分の中から出て来るもの。そして、それがどんなものでもきっと素晴らしくてワクワクして、身体にとってもリラックスするものなんだ」と。そんなことを考えているうちに、このクレヨンに出合いました。実際に画材を試してみると、「これだ!」と思いました。そして、あれこれ考えた結果、ハートアートが生まれました。

 

◆徐々に広がっていった活動
最初は、子どもたちや子育て中のお母さんを対象に教室を開いていました。そこへ、乳がんで余命1ヶ月と宣告された39歳のお母さんが参加されました。
どんどん、どんどん、描いてもらったら、3年半以上も生きてくれたのです。きっと、今、子どもと離れられないという気持ちが強くなっていったのだと思います。「これはすごい」と思い、岩手県社会福祉協議会の大会で、参加者500人にハートアートを体験してもらいました。「こんな絵の描き方があるんだ」と、興味を持ってくださった方に声をかけていただき、縁あって2014年11月から岩手医大での活動が始まりました。

 

◆実際に体験した方の反応
今まで本当にたくさんの信じられない話がありました。ある日、「絵なんか描きたくないけど、看護師さんのすすめで来ました」と、手術後の方が参加されました。描き始めてちょっとしたら、ボロボロと涙を流されて。その方は「がんと言われても泣かなかったのに、手術しても泣かなかったのに……。今、泣けた」と話されました。私は、まさにこれはヒーリングアートだと思いました。
何かを作ろうと思っているうちは、本当の自分は出てこないものです。無になって音楽の波動に合わせて色を塗っていくと、心に仕舞ってあった何もかもが思い出されていきます。皆さんの反応を見ていると、ハートアートは自分が自分と出会うことで、「いいよ!」と自分を許すことなのだと思います。

 

◆他のアートとの違い
小学校や中学校の時の評価で絵を嫌いになってしまう人もいますが、そもそも、人間はみんな生まれてきた時はアーティストです。あなたは、あなたの絵が描ける。一人ひとり違うから、同じ絵なんか描く必要はない。そして、絵には上手い、下手もない……。子どもたちの絵の審査員をさせてもらうこともありますが、一貫して「あなたは天才、みんな天才」と伝えたいです。
実は私には今も忘れられない苦い思い出があります。小学校2年生の夏休みの宿題で犬を描きました。犬をよくよく見ると、鼻から毛が生えていることに気づいて、その毛も細かく描きました。そして学校に持っていったら、「気持ち悪い」と先生に言われて、私の絵だけ貼られませんでした。「もっと子どもらしい絵を描くようにしなさい」と指導されましたが、私は子どもながらに「そんなことはできない!」と思い、涙は筆をポキッと折りました。
だからこそ、ここはそうじゃない場所にしたかったのです。描こうとして描いたものはお絵描きですが、ハートアートは「描く」じゃなくて「出す」に近いのかもしれません。教えることでもなくて、上手になることでもないのです。「ただただ、ひたすらに、自分のことを喜ばせてあげて」。そういう願いでいます。

 

◆「ハートアート」を通じて
色は、無数の光の塊でできていて、太陽の光は透明なので、あらゆるものの色を見せてくれています。虹色は7色。なんて誰が言ったのでしょう? あれは、「光は、無数の色の集合体なんだよ」って人間に分かるように見せてくれているものです。光は、全てが集まると透明になりますが、色は組み合わせると最後は真っ黒になります。それは、2つの世界が同時に存在しているということ。なので、ハートアートの時は、川は水色というような固定概念から離れてほしいと思っています。1枚の紙の中で自由になる。そんな体験をすると、「えっ!?」という驚きに遭遇します。それは喜びでもあります。1枚の絵で救われる世界があるのです。
サロンと別のお話ですが以前、遠野市の本田市長に頼まれて、お母さんのアートと子どものアートの両方に取り組みました。子どもたちは夏休み中の小学1年から6年生が参加してくれて、見せたいくらいのものすごいパワーでした。「こんなに好きなように描いていいのー!」と、大興奮。次から次へ、何枚も何枚も描いてくれました。最後の感想発表で控えめな2年生の女の子が「ハイッ」と挙手をして、「こんな描き方があるなんて知らなかったです。自分の子どもが生まれたら教えます」と言ってくれました。もしハートアートをしていなければ、彼女とは出会えなかったと思います。活動を通じた出会いはかけがえのないもので、こちらがハッとさせられることばかりです。

 

◆ホスピスで「ハートハート」を
このクレヨンは水に反応して、意図しない色彩を生むのですが、その時の「きれい!」と思う感覚は、身体の免疫力をUPさせます。そして、ハートアートを通じて内なる自分と出会うことで、自分を許せるようになっていきます。
私も含めて生きている人は必ず亡くなります。恐いと思う人が大半だと思います。ですが、ハートアートを始めてから私自身、死を恐れなくなりました。それは、きっと自分を認められたからなのだと思います。凝り固まった気持ちを和らげ、心の器を喜びで満たしていく……。活動は地道ですが、ハートアートには自己治癒力があるので、いつの日かホスピスの一つになれたら嬉しいです。

 

 

 

[取材をしてみて感じたこと]
本業はグラフィックデザイナーと聞いて、内心ドキドキしていましたが、お会いしてほんの2秒でそのドキドキはどこかに消えてしまいました。その大らかで分け隔てないお人柄は、まさに「チャーミング」という言葉がぴったりな女性だと思いました。
子どもの頃、図画の時間が憂鬱で仕方がなかった人は、きっと私だけでないはずです。何を隠そう、山崎さんもその一人でした。ただ、ハートアートが授業と違うのは、とにかく「自由に、自由に」ということ。手がおもむくままに、紙の上で色を踊らせていく。ぐるぐる、サッサッ、スーッ、ポツポツ……。そして、水で濡らした指でさらに色をグググッと伸ばしていく。すると、まるで雨上がりの空に虹がかかったような、みずみずしい色に変貌してしまうので驚きです。
その鮮やかな感動は、色のカプセルが弾けていくような感覚。まさに「免疫力がUPする」という意味が分かる瞬間でした。最後は達成感が入り混じった放心状態になってしまいましたが、目の前に現れた1枚の絵は確かに“私”なんだと腑に落ちました。すでに1000人の方とハートアートをしてきた山崎さん。近い将来、ハートアートが岩手の共通語になることを願ってやみません。

Interviewer 菊池(プカリ)

 

[プロフィール]
山崎文子(やまざき・ふみこ)・岩手県下閉伊郡岩泉町生まれ・日本大芸術学部卒
東京のプロダクション、盛岡市内の印刷会社を経て、25歳で独立。1988年冬季五輪の盛岡招致ポスターや、93年アルペンスキー世界選手権盛岡・雫石大会の公式デザインをはじめ、岩手県内の企業や観光のデザインなどを手がける。2014年11月より岩手医科大付属病院腫瘍センターの「がん患者・家族サロン」でアートセラピー「ハートアートデイ」を主宰。